はなのかんばせ

だいがくいんせいのらくがきのーと

愛について語ること

「愛って何だと思う?」

 と夕暮れの公園でブランコに揺れながら彼女は言った。

 僕は彼女の求めている答えがさっぱりわからない。愛、そんなもの、まだ考えたことがなかった。

「なんなんだろうね。気にはなるね」

「困ったら質問で返さないの」

 彼女は暮れゆく日を眺めながら笑った。たしかに日の方を見ていると思ったけれど、正確には彼女の目が何を捉えているのかわからなかった。僕の姿が彼女の視界に入っていないことだけが、今の僕にわかるたしかなことだった。

「ごめんね。でもわからないんだ」

 ふーん、と言いながら彼女はブランコを漕いだ。ゆらゆらと揺れながら、錆びた金属の軋む音を彼女は奏でた。

 白色の綺麗なロングスカートが風に押されて、彼女の長い足の形を浮かび上がらせる。どうしていいかわからなくて、僕は自分の左腕を眺めて時間を確認した、17時を少し回ったとことだった。公園の外には市バスのバス停がある。バスは僕たちがここに来てから、もう3回通り過ぎていた。

「つまらない男ね」

 彼女は笑いながら、ようやくこっちを見た。ただ、僕には彼女の笑顔がどこかいつもと違うように見えた。

「君は愛って何だと思う?」

「さあ。何なんだろうね」

 彼女は明らかに愛の答えが何なのかを知っていた。少なくとも僕にはそう見える。

「意志かな」

 僕はふと思いついた言葉を口にした。愛とは意志である、というのは最近読んだ小説に書いてあったことだ。関係を継続するのには意志がいる。それは、どこか正しい響きを持っている気がした。

「それも正解の一つかもね。じゃあ、君は私を愛する決意を持っているわけだ」

「僕の中ではね」

「あなたの考えていることなんて何でもお見通しよ」

「じゃあ僕が今考えていることは?」

 彼女はブランコの揺れを止めて、自信ありげに立ち上がった。

「早く帰りたいな、でしょ」

「今はそう思うね」

 バス停にはちょうど、バスが止まるところだった。彼女は僕の手を引き、バスの方へと向かった。その背中に僕は気になっていた質問を投げかけた。

「ねえ、君にとって愛って何?」

 彼女はちらとこちらを振り返った。それは一瞬のことで。彼女の顔は笑っているようにも、泣いているようにも見えた。

「あなたの手を引くことよ」

 僕たちは夜の街へ、2人で向かうことにした。